結論
風俗店でも、性的な行為への同意は「行為ごと」に必要です。同意のない行為は、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪になり得ます。店から示談を求められたときは、①誰のための何のお金かを確かめる、②その場で署名や支払いをしない、③やり取りを残す、の3つが大切です。店側の要求が行き過ぎれば、店の側が恐喝罪や弁護士法違反に問われることもあります。
風俗店(デリバリーヘルスなどを含みます)を利用したあと、従業員の方から「同意がなかった」と言われ、店から連絡が来て示談を求められた、というご相談があります。いわゆる「本番トラブル」や、サービスの範囲を超えた行為をめぐる、不同意性交・不同意わいせつの問題です。この記事は、そうした立場になった成人の方に向けて、刑事事件としての考え方と、店から示談を求められたときの対応を整理したものです。
従業員の方が実際に、望まない行為を受けたと感じている場合もあります。その気持ちを軽く扱わず、誠実に向き合うことが出発点です。一方で、店から示された要求がすべて正当とは限りません。ご相談では、「示談の金額をどう考えればよいか」と、「示談をしたあとで職場や自宅に来られないか」という2つの不安をよく伺います。
弁護士 古山智隆広島はちす法律事務所・広島弁護士会
このページは、広島で刑事弁護に注力する弁護士・古山智隆(広島弁護士会・弁護士登録番号60292)が解説します。広島県全域・島根県・山口県東部に対応しています。
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風俗店でも罪になる?
料金を支払って利用しても、それは店が提供するサービスの範囲についての合意にすぎません。範囲を超えた行為や、従業員が拒んだ行為まで、同意したことになるわけではありません。同意の有無は、行為ごとに判断されます。
刑法は、暴行・脅迫を用いた場合だけでなく、一定の事由等により「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて」わいせつな行為をした場合を、不同意わいせつ罪(第176条)として処罰します。性交等をした場合は不同意性交等罪(第177条)です。困難な状態を生じさせる事由として、暴行・脅迫のほか、同意しない意思を表明するいとまがないこと、予想と異なる事態に直面して恐怖・驚愕していること、経済的・社会的関係上の地位に基づく影響力によって不利益を憂慮していること、などが挙げられています。
法定刑は、不同意わいせつ罪が6月以上10年以下の拘禁刑、不同意性交等罪が5年以上の有期拘禁刑で、どちらも罰金刑がありません。起訴されれば、略式命令(罰金)ではなく正式な裁判になります。また、これらの罪は、刑法の条文に告訴が必要である旨の定めがなく、被害届や告訴がある前でも、その後でも、捜査や起訴が行われ得ます。店にお金を払ったから刑事事件にならない、とは限りません。
不同意わいせつ罪(第176条)の法定刑
6月以上10年以下の拘禁刑
不同意性交等罪(第177条)の法定刑
5年以上の有期拘禁刑
同意があると思っていた場合
これらの罪が成立するには、行為をした人に、相手が同意していないことの認識(故意)が必要です(刑法第38条第1項)。「相手も受け入れていると思っていた」という場合は、この点が争いになります。
もっとも、認識があったかどうかは、頭の中の話だけでは判断されません。従業員の方が実際に何と言い、どう振る舞ったか、行為の前後にどんなやり取りがあったか、といった客観的な事情から判断されます。
事実関係を争うのか、行為があったことを前提に示談などの対応を進めるのかで、必要な対応が変わります。どちらの場合も、最初の対応(店への返答や、書面へのサイン)が後の見通しを左右することがあります。
店から連絡が来たら
店や従業員側から連絡が来たときは、次のことを意識してください。
- その場で支払わない・署名しない:念書や誓約書、示談書へのサイン、現金の手渡しは、内容を確かめてからにします。
- 事実の経過を書き出す:日時、店名、コース、従業員とのやり取り、行為の内容を、記憶が新しいうちに時系列でメモします。
- 連絡の記録を消さない:電話・メッセージ・メールは削除せず、電話は可能なら録音します。
- 認める趣旨の文章を送らない:謝罪のつもりのメッセージが、あとで事実を認めた証拠として扱われることがあります。
- 個人情報をこれ以上出さない:勤務先、自宅、家族の連絡先を尋ねられても、すぐには答えません。
- 早めに弁護士へ相談する:店への返答の仕方を、事前に決めておくことができます。
店が求める金は何の金?
店から示談金を求められたときは、そのお金が誰の、何のためのものかを分けて考えることが大切です。
- 従業員本人への被害弁償や慰謝料:これは、被害を受けたとされる従業員本人の権利です。店が代わりに受け取る場合は、本人がそれを望んでいるのか、確認が必要です。
- 店の損害に対する支払い:事前に利用規約などで違約金が定められている場合もありますが、その額や根拠が妥当かは、内容によって異なります。
- その他の名目:「迷惑料」「口止め料」などの名目には、特に注意が必要です。
金額が高いというだけで、直ちに違法になるわけではありません。被害を受けた側の気持ちの表れである場合もあります。ただ、金額の根拠や、誰が受け取るのかが説明されないままの要求には、応じる前に確認が必要です。
示談の窓口に誰が立っているのかも重要です。2026年2月には、宮崎市の無店舗型性風俗店の店長ら4人が、弁護士でないのに、店の女性従業員と不同意性交をした客との間で示談交渉や示談金の受け取りをしたとして、弁護士法違反の疑いで逮捕されたと報じられました。弁護士法第72条は、弁護士でない者が、報酬を得る目的で、他人の法律事件について和解などの法律事務を業として取り扱うことを禁じています(違反には2年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金)。店が従業員本人に代わって示談を進めている場合は、その点も確認が必要になります。
店の要求が違法になるとき
示談を求めること自体は、被害を受けた側の正当な権利の行使でありえます。しかし、その手段によっては、店や関係者の側が犯罪に問われます。
人を恐喝して財物を交付させた者は、恐喝罪(刑法第249条)として10年以下の拘禁刑に処せられます。害を加える旨を告げて脅せば脅迫罪(第222条、2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)、義務のないことを行わせれば強要罪(第223条、3年以下の拘禁刑)に当たり得ます。
最高裁は、他人に対して権利を有する者がその権利を実行することは、その範囲内で、かつ方法が社会通念上一般に忍容すべき程度を超えない限り違法にならないが、その程度を逸脱すれば恐喝罪が成立することがある、と判断しています(最判昭和30年10月14日)。
弁護士のポイント
仮に客に賠償を求める権利があったとしても、脅すような手段を使えば恐喝になり得ます。
また、警察に届け出ること自体は違法ではなくても、それをたねにして、届け出ると告げて相手を畏怖させ、口止め料として金品を出させれば恐喝罪になり得るとした判断もあります(最判昭和29年4月6日)。
実際の場面では、次のような違いがあります。
- 正当な範囲にとどまりやすい例:「被害届を出すつもりです」など
- 行き過ぎになりやすい例:「金払わないなら指を詰めろ」など
ただし、境目は言葉だけでなく、様々な事情から総合的に判断されます。判断に迷うときは、やり取りの記録をもとに弁護士へ相談してください。
脅されたときの備え
店や関係者から、脅された場合は、次の記録を残してください。
- いつ、誰から、どの手段で、何と言われたか(日時と言葉を具体的にメモする)
- メッセージや着信履歴の画面(スクリーンショット)、通話の録音
- すでに支払った場合は、振込の記録や、受け取った書面
警察の相談窓口(#9110)に相談する方法もあります。ただし、相談の内容によっては、ご自身の行為についても事情を聞かれる可能性があります。相談の順序や伝え方は、先に弁護士と決めておくと安全です。
示談はしたほうがいい?
被害を受けたとされる方との示談が成立するかどうかは、起訴するかどうかの判断で、重要な事情の一つになります。ただし、示談をすれば必ず不起訴になるわけではなく、事案によって異なります。
事実関係に争いがある場合は、示談を進めるかどうか、進めるならどの文言にするかを、署名の前に決めておく必要があります。
弁護士のポイント
注意したいのは、示談書の文言によっては、事実を認めたと受け取られることがある点です。
弁護士に頼む意味
- 窓口を一本化できる:店や従業員とのやり取りを弁護士が引き受け、ご本人や職場への連絡を止めるよう働きかけます。
- 事実関係に合わせた方針を立てられる:争うのか、示談を進めるのかを、早い段階で整理します。
- 示談書の内容を確認できる:署名の前に、文言や条項が適切かを確認します。
- 警察・検察への対応:呼び出しや取調べへの備えについても助言します。
すでに示談書に署名した、支払いを済ませた、という方の相談も受けています。
よくあるご質問
Q従業員が拒んだのに続けてしまいました。罪になりますか?
同意しない意思を示した相手に対して行為を続ければ、不同意わいせつ罪や不同意性交等罪に当たる可能性があります。
Q店にお金を払えば、事件にならなくて済みますか?
その可能性もあります。もっとも、その支払いでトラブル解決となるとは限りませんので、お金を支払ってしまう前に弁護士に相談してください。
Q店から「警察に行く」と言われました。恐喝ではないのですか?
警察に届け出ると告げること自体は、直ちに恐喝にはなりません。ただし、それをたねに口止め料として金品を求めたり、脅すような言い方をしたりすれば、恐喝や脅迫に当たる可能性もあります。
Q「職場や自宅に行く」と言われています。どうすればよいですか?
日時と言葉を記録し、すぐに弁護士へ相談してください。
Qすでに示談書にサインし、支払いも済ませました。相談できますか?
はい。示談書の内容を確認し、追加の要求があるときの対応などを検討します。示談の内容によって、できることが変わります。
Q示談金の金額に決まりはありますか?
一律の基準はなく、事案によって異なります。金額だけで妥当かどうかは判断できないため、経緯や、誰に対するどんなお金なのかを確認したうえで検討します。
回答は2026年9月時点の情報に基づく一般的な説明であり、結果を保証するものではありません。見通しは個々の事案により異なります。
出典:刑法(e-Gov法令検索)、弁護士法(e-Gov法令検索)、最高裁判所第二小法廷 昭和30年10月14日判決(昭和27年(あ)第6596号)、最高裁判所第三小法廷 昭和29年4月6日判決(昭和27年(あ)第6260号)、弁護士ドットコムニュース「風俗店が客と示談交渉で逮捕、『本番トラブル』…」(2026年2月22日)
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